エンタープライズ営業とは?SaaSにおける必要性や具体的な手法を解説
近年、サブスクリプションのサービスを取り扱うSaaS市場は驚異的な成長を遂げています。この市場において、自社のサービスが確固たるポジションを築くためには、効果的な営業戦略の策定が不可欠です。そこでこの記事では、SaaS企業にとって重要な営業戦略の一つである「エンタープライズ営業」について詳しく説明します。
目次
エンタープライズ営業とは?
エンタープライズ営業とは、大規模な法人や大企業をターゲットとした営業活動のことです。通常、エンタープライズ営業では高額の商品やサービスを提供する場合が多く、大きな利益が見込まれるため力を入れている企業が多くあります。
また、ターゲットとなる大企業は国内の中小企業のうちわずか0.3%とされています。競合が必然的に多くなることから、ターゲットを絞り適切な戦略を立てることが必要です。
「LTVを最大化する」ということ
LTV(Life Time Value)は、顧客の生涯価値を表す指標です。具体的には、顧客が取引を行う期間中に企業にもたらす利益やその他の経済的価値を評価します。LTVの最大化は、エンタープライズ営業の肝であるといえます。このLTVの最大化という観点から考えると、受注を取ることがゴールではありません。どのように複数の部署へ複数の商品を展開していくかなど、検討する必要があります。
エンタープライズの定義
「エンタープライズ」という用語は、一般的には主に大企業を指しますが、大企業の定義について具体的にご存じでしょうか。大企業は一般的に「中小企業以外の企業」として扱われますが、明確な定義は存在しません。以下の表は、中小企業基本法に基づく中小企業の定義です。つまり、この条件よりも大きい企業が大企業となります。
業種 |
資本金 または 従業員 |
|
製造業・その他 |
3億円以下 |
300人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
サービス業 |
5000万円以下 |
100人以下 |
小売業 |
5000万円以下 |
50人以下 |
他の営業手法と何が違う?
では、具体的にエンタープライズ営業はほかの営業手法とどのように違うのでしょうか。ここからは主な違いである2つの点を説明します。
SMB営業との違い
SMB営業(Small and Medium-sized Business Sales)は、中小企業を対象とした営業活動です。SMBセールスでは、リードタイムが比較的短く、少ない商談数で成約に至るケースも多くあります。しかし、中小企業はサービスの導入に利用できる予算が限られていくことが多いため、中長期的には売上が伸び悩むケースが多いでしょう。
一方、エンタープライズ営業はリードタイムが長く、契約交渉や調整の複雑さがデメリットです。顧客企業全体のニーズや要件を把握し、複数のステークホルダーとの関係構築を行う必要がありますが、長期的な売上が期待できるでしょう。
The Modelとの違い
エンタープライズ営業に加えて、最近注目を集めている営業手法として「The Model型営業」が存在します。The Model型営業は、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つのプロセスに分かれ、各部門が連携して行う営業手法です。この手法は、顧客に広範なアプローチを行いながら、次第にリードを絞り込む流れで進められます。
一方、エンタープライズ営業は、最初にアプローチする企業を決定してから進められます。この点がThe Model型営業との大きな違いであり、エンタープライズ営業の特徴です。また、商談においても両者は異なるアプローチを取ります。The Model型営業は、営業担当者が単独で行うことがほとんどです。しかし、エンタープライズ営業では自社の製品を多くの人が利用するため、企業全体でさまざまな手法を活用し、自社製品をアピールします。
エンタープライズ営業とThe Model型営業では、手法自体が大きく異なりますので、違いをしっかりと理解しておく必要があります。
エンタープライズ営業が求められる理由
現在、エンタープライズ営業が求められているのはなぜでしょうか。ここからは、主な理由と考えられる点を3つ説明します。
顧客単価が高い
エンタープライズ営業では、1つの契約が決まれば大きな売り上げが期待できます。特にSaaS企業においては、サブスクリプション型の料金体系が多いため、中小企業との契約よりも、多くの社員がサービスを利用する大企業との契約が重要です。
複数の成約を獲得できることがある
大手企業との契約では、複数の部署でサービスを利用してもらえる可能性があります。これは、複数の部署で異なるサービスを利用すると、情報共有が困難になるためです。したがって、ツールやシステムの統一によるメリットを理解してもらえれば、多くの部署での自社商品の導入につながり、大きな利益が期待できるでしょう。
長期的に安定した収益を得られる
エンタープライズ営業は、契約に至るまでが難しい反面、契約されたサービスが社内で多く使われるようになれば、解約率は極めて低いものとなります。これは、一度導入したシステムやツールを変更してしまうと、社員数が多い企業では多くの手間やコストがかかってしまうからです。そのため、契約後も定期的なコミュニケーションを欠かさず、顧客企業に寄り添ったフォローが重要になります。
エンタープライズ営業を進めるステップ
エンタープライズ営業といっても、具体的な進め方が分からない方もいるかもしれません。そこで、ここからはエンタープライズ営業を進めるステップを4つに分けて説明します。
ターゲットを定める
まず、ターゲットとする企業を決定する必要があります。SFAツールやMAツールを活用して情報を収集し、整理・分析し、優先順位を付けましょう。自社に適した分析を行うことで、自社にとっての優良企業を見つけ出せます。
選定基準は、自社が重要指標と位置づけている要素から検討します。具体的には、相性の良い業種や部門、利益幅、リピーターにつながる可能性など、さまざまな要素を分析しましょう。こうした手法を用いて、ターゲットを絞り込んでその企業に最適なアプローチを行うマーケティング手法をABM(Account Based Marketing)といいます。
ターゲットとする企業を見誤ると、収益に大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重な選定が重要です。
インサイドセールスを実施する
ターゲット企業を決定した後は、インサイドセールスを活用してその企業にアプローチしましょう。エンタープライズ営業では、BDR(Business Development Representative)というインサイドセールス手法が効果的です。この手法では、自社がターゲットとする企業に対して積極的にアプローチする、アウトバウンド型の新規開拓営業を行います。
具体的には、直接メールや電話を活用して決済者に対して営業を行い、商談獲得につなげていきます。BDRでは、インサイドセールス部門が専門的に新規開拓を担当し、商談獲得後にエンタープライズ部門に引き継ぐ流れが一般的です。
インサイドセールスの方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
リファラル戦略を進める
エンタープライズ企業の開拓には、リファラル戦略が有効です。リファラル戦略とは、製品やサービスのユーザーが自身の友人や知人に紹介することにより、その製品やサービスの価値を広めるマーケティング手法です。
エンタープライズ営業では、イベントの共催、紹介契約、販売代理店契約などがリファラル戦略の一環となります。ABMにより、選定したターゲット企業と接点を持つパートナー企業などを確認しましょう。また、BDRは自社内のリソースを活用する一方、リファラル戦略では外部の力を借りることで、より効率的にターゲット企業にアプローチできます。
具体的なリファラル戦略の手法としては以下が挙げられます
(1)紹介営業
パートナー企業がターゲット企業の情報を持っている場合に、手数料や売上の一を報酬として支払い、紹介してもらう方法です。決裁者に直接アプローチできる機会が多く、短期間で成果を上げる可能性があります。
(2)販売代理店契約
代理店が持つリソースを活用して営業を代行してもらう方法です。すでに顧客企業との関係性を構築している代理店も多く存在するため、紹介営業と同様に成約までの期間を短縮できるでしょう。
(3)イベント共催
他社と協力してイベントを共催する方法もリファラル戦略の一つです。ターゲット企業と属性が類似しており競合しないイベントを共同で開催することで、相互にターゲット企業のリード獲得につなげられます
これに加えて、他事業部での名刺交換やSNSを通じたつながりなど、さまざまな切り口を考慮し、確認してみましょう。
ターゲットの企業構造を整理する
エンタープライズ営業においては、ライバル企業に対抗するため、ターゲット企業の構造を理解する必要があります。大企業には複数の部署が存在し、関与する人物も多岐にわたるでしょう。そのため、全体像を把握するために相関図の作成が重要です。
各部署のキーパーソンや部署間の連携を把握すると、契約後もスムーズな営業展開が可能です。また、一度商談を行った企業には、良好な関係を築いている担当者が自社内に存在する可能性や、既存顧客の中にターゲット企業とつながりのある人物がいる可能性も考えられます。さまざまな角度から効率的に意思決定者にアプローチする方法を探りましょう。
LTV最大化の戦略を実施する
顧客企業との契約後には、自社の製品やサービスをほかの部署やグループ会社に展開し、LTVを最大化することを目指します。大企業では部署やグループ会社が多いため、商品を横展開することで利益を最大化できます。そのためには、ほかの部署との関係構築や企業とのコミュニケーションを欠かさず行うことが重要です。
また、LTVを最大化するためには、商材に柔軟性を持たせることも重要です。商材には幅広い機能を持たせることや、顧客企業の要望に応じて仕様変更を行えるようにすることが求められます。これにより、顧客企業のニーズに合わせた柔軟な提案が可能となり、長期的な関係を築けるでしょう。
まとめ
エンタープライズ営業は、競合他社の数が多く、契約までの時間やコストがかかる一方で、成功すれば大きな売上を獲得できるというメリットがあります。さらに、解約率も低い傾向にあることが分かりました。この記事を参考にして、慎重に営業方法を考え、エンタープライズ企業との契約を実現しましょう。